State of Drupal プレゼンテーション(2025年10月)

この記事は以下の記事を翻訳し、掲載しています。
出典:State of Drupal presentation (October 2025)

DrupalConウィーンでの基調講演で、私はAI対応のビジュアル編集、サイトテンプレート、自律型エージェント、ワークフローオーケストレーションを通じて、DrupalがどのようにAI主導のWebに適応しているかを話しました。

Webは急速に変化しています。AIは今やコンテンツを書き、Webページを構築し、しばしばWebサイトを経由せずに直接質問に答えるようになっています。

これがDrupalにとって何を意味するのか、多くの方が疑問に思われるため、DrupalConウィーンではこの課題に真正面から取り組みました。私のメッセージはシンプルです。AIは嵐のような存在であり、それと同時にその嵐を突き進む道でもあります。AIと戦うのではなく、AIを積極的に取り入れていくのです。

基調講演では、Drupalが4つの製品領域でどのように進化しているかに焦点を当てました。私たちはサイトテンプレートでDrupalの導入を容易にし、Drupal Canvasで直感的なサイト構築を実現し、AI支援で開発を加速させ、新たなオーケストレーションツールで複雑なワークフローを実現するための可能性を探っています。

基調講演を見逃した方は、以下の動画を視聴するか、スライド資料(62 MB)をダウンロードすることができます。

 

 

今回のウィーンは転換点のように感じられました。人々は、これまでの取り組みが形になり始めているのを実感していました。DrupalはAIの時代の中で自らの立ち位置を確立し、AIのイノベーションをリードし、これからのWebのあり方を共に築く準備ができています。

サイトテンプレートによるDrupalの成長

Drupalを成長させる最も重要な方法の一つは、新しいサイトを構築する作業をより簡単かつ迅速にすることです。私たちは「レシピ」という、サイトに共通機能を素早く追加する手法でその取り組みを開始しました。レシピにより、アイデアの状態からWebサイトを完成させるまでを数日ではなく数時間で実現できるようになりました。

DrupalConウィーンでは、その取り組みの次の段階である、最初の「サイトテンプレート」について話しました。サイトテンプレートはレシピを基盤とし、レイアウト、ビジュアルスタイル、サンプルコンテンツを備えた完成済みのデザインを提供します。これにより、Drupalの新規インストールから数分で完全な状態のWebサイトが構築可能になります。これはDrupalを始める最も簡単な方法となるでしょう。

次の段階として、さらに多くのサイトテンプレートを導入し、あらゆるユーザーが異なるユースケース向けのテンプレートを発見、共有、拡張することのできる「サイトテンプレートマーケットプレイス」を立ち上げる予定です。

新しいビジュアル編集体験

DrupalConウィーンでは、Drupal Canvasへの熱気が会場中に広がっていました。一部では「CanvasCon」という声が上がるほどでした。Drupal Canvasのセッションは、Drupal AIのセッションと同様に、立ち見客が出るほど盛況でした。

私は2024年9月のDrupalCon BarcelonaDrupalのStarshotイニシアチブを発表した際に、Drupal Canvasの初期バージョンを初めて公開しました。わずか1年で成し遂げた進歩は目覚ましいものです。基調講演ではDrupal Canvasの実演の一部をお見せしましたが、より深く知りたい方にはこのブレイクアウトセッションの視聴をお勧めします。

Drupal Canvasのバージョン1.0は2025年11月にリリース予定です。2026年1月からはDrupal CMS 2.0のデフォルトページビルダーとなります。15ヶ月以上の開発期間と、Drupalを誰もが使いやすくするために尽力してくれた数多くの貢献者たちの努力を経て、ついにここまで来たというのは信じがたいほどです。これはDrupalを用いたコンテンツ制作の新たな章の始まりを告げるものとなります。

私が最も興奮するのは、これで何が解決するかという点です。長年、Drupalでのページ構築には技術的な専門知識が必要でした。Drupal Canvasはエンドユーザーに、より強力でありながら使いやすいビジュアルなページビルダーを提供します。さらにReactをサポートしているため、フロントエンド開発者は彼らが持っているスキルを活用して貢献することができます。

Drupalの偶然のAI優位性

どのようなコンテンツ管理システムにも決定的な瞬間が訪れます。DrupalにとってそれはDrupal 8のリリース時でした。私たちはDrupalを根本から再構築し、現代的な設計パターンを採用するとともに、設定管理、バージョン管理、ワークフローなどを改善しました。

移行は困難でしたが、ここに驚くべき点がありました。10年後、その時の決断が今日のAI主導のWebにおいてDrupalに予期せぬ優位性をもたらしたのです。私たちが構築したアーキテクチャは、まさに現代のAIシステムが求めるものでした。AIがコンテンツを修正する際には、ミスを元に戻すためのバージョン管理が必要です。AIがページを生成する際には、構造化されたデータ、権限管理、ワークフローが必要です。Drupalは既にこれらの機能を備えているのです。

長年、他のプラットフォームが使いやすさに注力していた一方で、Drupalは柔軟性と堅牢性を優先してきました。かつては余計な複雑さと思われたものが、今では完全に理にかなうものになっています。Drupalはいつの間にか、最もAIに対応したプラットフォームの一つとなったのです。

AIは嵐であり、その嵐を突き進む道でもある

AI is the storm, and the way through the storm

基調講演で述べた通り、「AIに恐怖を感じたかと思えば、一時間後にはAIに興奮し、夕方にはもう聞き飽きています」。それでも私たちはAIを無視することはできません。

私は最初、Starshotの一部としてAIを導入しました。そして5ヶ月前、Drupal AIイニシアチブの立ち上げにより、それは独立したテーマ領域となりました。それ以来、22の機関が資金と人材の両面でこの取り組みを支援し、総額で100万ドルを超える貢献をしています。これはDrupal史上最大の資金調達活動です。

このイニシアチブは既に目覚ましい成果を生み出しています。DrupalConウィーンでは、Drupal AIバージョン1.2をリリースし、イニシアチブにとって大きな前進となりました。

基調講演では、3つの新たなAI機能も実演しました。

  1. AIによるページ構築:Drupal AIは、Drupal Canvasのコンポーネントベースのデザインシステムを利用し、わずか数分で、デザインされ完成したページを生成できるようになりました。これまでサイトビルダーが数時間かけて構築していたものが、サイトの構造やスタイルを保ったまま数分で実現できます。
  2. コンテキストコントロールセンター:チームは、1つのUI上でブランドボイス、ターゲットオーディエンス、主要メッセージを定義できます。すべてのAIエージェントは、この情報源を参照します。
  3. 自律型エージェント:コンテキストコントロールセンターで商品価格や会社の統計値などの情報を更新すると、エージェントがサイト全体を自動的に確認し、該当箇所の更新案を提示します。公開前に変更内容を確認・承認することができます。

探求すべき道としてのオーケストレーション

今年の初め、私はデジタルエージェンシーの分業化について書きました。AIがより多くの技術的作業を自動化するにつれ、エージェンシーはビジネスモデルを進化させ、新たな価値創出の方法を見つける必要があります。

その有望な方向性のひとつがオーケストレーションです。つまり、AIエージェントやコンテンツプラットフォーム、CRM、マーケティングツールなどをつなぎ合わせ、知的で自動化されたワークフローを実現する仕組みをつくることです。私はこれをDXP 2.0と捉えています。

多くの組織は複雑なマーケティングテクノロジー基盤を持っていますが、それらのシステムをすべて連携させるには、しばしばカスタムコードの記述や繰り返しの手作業が必要になります。こうした統合作業の多くは時間がかかり、メンテナンスも難しくなります。

現代のオーケストレーションツールは、システム間の情報フローを自動化することでこの課題を解決します。カスタムコードを書く代わりにノーコードツールを使い、自動的に実行されるワークフローを定義できます。誰かがフォームに入力すると、手作業なしでシステムがCRMコンタクトを作成し、ウェルカムメールを送信し、チームに通知します。

私の基調講演では、ECAActivePiecesがどのように連携できるかを紹介しました。私はECAの開発者であるユルゲン・ハース氏とこの統合に共同で取り組みました。ECAはDrupal内でイベント・条件・アクションを使って自動化を定義できるモジュールです。ActivePiecesはZapiern8nに似たオープンソースの自動化プラットフォームです。

このアプローチによって、より優れたよりスマートなユーザー体験を構築できるだけでなく、Drupalがより広いエコシステムで進むAIイノベーションの恩恵を受けられるようになります。この考え方はウィーンでも共感を呼びました。FlowdropDrupalのMCPモジュールなどの関連プロジェクトやデモを携えた人々が熱心に話しかけてくれました。

今からDrupalConシカゴまでの間に、私たちはこの取り組みをコミュニティとともに探求・拡張していきたいと考えています。Drupal Slackの#orchestrationチャンネルに参加したり、新しいOrchestrationモジュールをテストしたり、他の自動化プラットフォームと連携したり、ECAの改善に協力したりしてください。この取り組みが有望だと判断できれば、DrupalConシカゴでその成果を共有したいと思います。

共に未来を築く

DrupalConウィーンで私は何かが変わりつつあるのを感じました。セッションは満員で、参加者はサイトテンプレートやマーケットプレイスに熱狂していました。Drupal Canvasには大勢が集まり、さらに多くのエージェンシーがDrupal AIイニシアチブへの参加を申し込んだのです。コントリビューションデーには、普段より多くの人々が支援の方法を求めて集まりました。

ウィーンで感じたこのエネルギーは、より大きな潮流を映し出していました。AIは人々のWeb利用方法と、私たちがWebを構築する方法を変化させています。脅威に感じられることもあれば、可能性に満ちていると感じられることもあります。しかしウィーンで明らかになったのは、Drupalがこの転換点において、勢いと方向性の両方を備えた好位置にあるということです。

この瞬間を特別なものにしているのは、コミュニティが集中力と協調性をもって応えているという点です。試行錯誤の余地を残しつつ、これまで以上に協調的な取り組みとして臨んでいます。

ウィーンでは、Drupalコミュニティがこの大きな挑戦に一緒に取り組む準備ができていることがわかりました。これまでにも未知の領域に挑戦してきたことはありますが、今回は、ここ数年見られなかった大胆さと結束力があります。それが嵐を乗り切る方法なのです。その一員であることを誇りに思います。

私のプレゼンテーションとデモを成功させるために貢献してくださったすべての方々に、感謝の意を表したいと思います。特に、Adam G-HAidan FosterASH SullivanBálint KlériCristina ChumillasElliott MowerEmma HorrellGábor HojtsyGurwinder AntalJames AbrahamsJurgen HaasKristen PolLauri TimmaneeMarcus JohanssonMartin Anderson-ClutzPamela BaroneTiffany FarrissTim LehnenWitze Van der Straeten に感謝します。その他、間接的にこの実現に貢献してくださった多くの方々に感謝いたします。万が一、お名前を記載し忘れた方がいらっしゃいましたら、お手数ですがご連絡いただけますようお願いいたします。

— Dries Buytaert